World Music|世界の音楽とことばのアーカイブ

アフリカ、インド、中東、南米、東欧、バリ、ジャズ、民謡、スーフィー、クラシックまで。 蒐集・試聴・旅・記録を通じて世界の音楽文化を紹介する日本語のワールドミュージック・メディア。

Monday, 19/1/2026 | 10:02 UTC+9

tunga — 透明なコラの響きと、NYで出会った音の冒険

“冒険”という意味の言葉がある。
マリの言葉で Tunga(トゥンガ) —— それは人生の旅そのものを指す。

この作品を初めて聴いたとき、
僕は静かに息を飲んだ。
アフリカの音楽にある「熱」ではなく、
もっと 透明な光がそのまま音になったような一枚 だったからだ。


NYでの出会い —— 作品を「選ぶ」という冒険

Tunga は、僕が原盤制作ではなく
“選んだ” ワールドミュージック作品 だ。

契約のためにニューヨークに飛んだことを、いまでもよく覚えている。

レーベルのファウンダーと向き合いながら、
ママドゥ・ジャバテという才能の話を聞いたとき、
胸が少し熱くなった。

その熱は “商業的な興奮” ではなく、
「これは紹介すべき音だ」
という静かな確信に近かった。

音を“作る”のではなく、
音を“選ぶ”という責任。
Tunga は、僕にその意味を教えてくれた作品だった。


Mamadou Diabate — マンディングの血脈を継ぐコラ奏者

ママドゥは1975年、マリのキタに生まれた。
父もコラ奏者、叔父は名匠トゥマニ・ジャバテ——
まさに “マンディング音楽の血” のど真ん中に育った。

15歳でコラ大会のグランプリ。
16歳で首都バマコへ。
そして1996年からニューヨークへ渡り、
ジャズ、ブルース、クラブカルチャーと交差しながら
伝統のコラに新しい風を吹き込んでいく。

21世紀のKoraの巨匠(Korafola) と呼ばれる理由が、
このデビュー作にもはっきりと刻まれている。


Tunga——タイトルに込めた“冒険”への敬意

ママドゥは言う。

“Tunga とは冒険のこと。
人生そのものだ。”

このアルバムは、
マリの伝統的なコラ音楽を軸にしながら、

  • アメリカン・ブルース

  • バンバラ音楽

  • ガンビアの速いスタイル

  • マンディングの古典

  • グリオの語り

を混ぜ合わせ、
まさに “心と耳のための冒険” に仕上がっている。

朝日新聞「今月の一枚」に選ばれた理由は、
音を聴けばすぐに分かる。


演奏者と音の風景

  • Mamadou Diabate(kora)

  • Ira Coleman(acoustic bass)

  • Fuseini Kouyate(ngoni)

  • Famaro Diabate(balafon)

  • Abdoulaye Diabate(vocal)

  • Cheick Barry(electric bass)

  • Fode Seydou Bangoura(djembe)

このアンサンブルがつくる微妙なグルーヴは、
聴いているとじわじわ身体に染みてくる。

ピーター・バラカンさんが書いた

「ベースを含むアンサンブルの微妙なグルーヴにはまるとやめられない。これはヒットだ!」
というコメントは、この作品を象徴している。


Track Highlights

1. Dagna — 運命

MamadouとFuseiniの共作。
「自分がコラ奏者になる運命だった」
というママドゥの言葉が、そのまま音になっている。

2. Dounuya — 世界

ブルースとマンディングの融合。
Abdoulayeのヴォーカルは光のように伸びる。

3. Tunga — 冒険

タイトル曲。
ママドゥの“人生への肯定”が静かに伝わる名曲。

4. Larsidan — 故郷の記憶

キタの音楽。
昔の偉人への敬意を込めた、力強い一曲。

5. Soutoukou — ガンビアの土の匂い

古いレパートリーをママドゥ流に再構築。

8. Djelimory — 生まれたばかりの息子へ

優しく、美しく、愛にあふれたメロディ。

9. Mande — ルーツへの回帰

コラ、ンゴニ、バラフォン——
マンディングの三本柱が深く絡み合う。


Tunga を聴くと、いつも心が静かになる理由

Tunga は“熱”ではなく、
人が人生を歩むときにふっと立ち止まる瞬間の音
できている。

ママドゥの透明なコラの響きは、
忙しい時期の朝に聴くと、
心がすっと静かになる。

この作品は
「世界がどれほど広くても、音は人と人を繋ぐ」
ということを、静かに教えてくれる。

About

世界の音楽との「出会い」(自己紹介 noteへのリンク) 大阪のレコード店で出会ったインドネシアのダンスミュージック ダンドゥット(DANGDUT)の女王、エルフィ・スカエシ(Elvy Sukaesih)と言ってもまずは誰もわからないだろう。インドネシアの美空ひばりと言ってもピンとこないな、きっと。それに正しくもない。インドネシアは多様な民族の集まる国だから国民を代表する歌手はいない。ひとつの大衆音楽の女王である。 大袈裟だが、このレコードと出会わなかったら、自分の人生は変わっていただろうと思う。ただ、それはわからない。でも、出会うべくして出会ったのだろう。 https://note.com/jirorhythm/n/n936acb145d0e

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