João Gilberto — 日本語全訳
BEGINNER’S GUIDE
ジョアン・ジルベルト
ボサノバの先駆者であり、極度のステージ恐怖症を抱えた完璧主義者。
娘のベベルが語る、ブラジルで最も愛されたアーティストのひとり。
語り手:Gonçalo Frota

〈1ページ目〉
もしジョアン・ジルベルト(1931–2019)が今日も生きていたら、
ベベウによれば、おそらく João のアルバムは存在しなかっただろう。
少なくとも彼女の推測では、父の音楽だけを扱ったアルバムを、同じやり方では録音しなかった可能性が高いという。
ベベウは『ソングラインズ』にこう語る。
「もし私がすべてを彼の意見通りにやっていたら、彼はきっと満足しなかったと思う。
でも、できるかぎり父の好みに合わせようとしていたら、私は全然自由に歌えなかったと思う。
父は私のことをとても批評した人だったの。」
もちろん父は彼女を愛していた。
だが、それでもこう言う。
「気に入らないときは容赦しなかったわ」
■ バイーアのジュアゼイロ生まれ
子どもの頃からショーロを愛した父ジョアンは、1950年にリオへ移り住んだ。
トム・ジョビンとともにボサノバを作り上げ、その音楽を世界に届けた。
ブラジルのパーティ文化と太陽の国に根ざしたジョビンの弾むようなピアノとは対照的に、
ジョアンの ヴィオラ(アコースティックギター)の撫でるようなタッチと、ささやくような歌声 は独自のスタイルを生んだ。
ベベウは言う。
「父の音楽で最も大切なのは、彼のヴィオラの演奏。
多くの人は気づいていないけれど、父の演奏には全く同じ曲なんて一つもないの。
彼は決して同じことを繰り返さない。
まるで体操選手みたいに、ハーモニーを操りながらギターをオーケストラに変えてしまう。」
■ ニューヨークとリオ、異なるバックグラウンド
ベベルは音楽一家に生まれ、リオとニューヨークという異なる文化圏で育った。
ジョアンは音楽学校で学んだわけではない。
ベベウが指す「コンセルヴァトリー(正規教育)」とは違う。
「私はニューヨーク生まれで、80年代のあの狂騒の中で育ったから、父とは考え方が全然違ったわ」
ジョアンが完璧主義者だったのは、音楽に人生のすべてを捧げたからだ。
「父の完璧主義は、彼自身を苦しめてもいた」と彼女は言う。
ジョアンは極度のステージ恐怖症に悩み、
ベベウは彼を励まして、もっとステージに立つよう説得しようとしたが、
最終的にそれが父のストレスになってしまうことにも気づいた。
ベベウにとって演奏会は、
「美しいエネルギーの交換であり、魔法のような癒し」
だがジョアンにとっては、しばしば苦痛だった。
〈2ページ目〉

■ 『Tanto Tempo』でのデビュー
2000年、ベベウが Tanto Tempo をリリースしたとき、
彼女が父の遺産をどう受け継いだかは明らかだった。
ボサノバのスムースさを保ちながら、
エレクトロニカやジャズの要素を織り交ぜた独自のサウンドを築いた。
その後、ミウーシャやシコ・ブアルキと共演したり、
カーネギー・ホールで演奏したりと活躍。
『Tanto Tempo』は世界的ヒットとなり、
その後10年にわたり彼女の代表作となった。
■ 父への「ラブレター」としての『João』
88歳で亡くなった父の遺した音楽を、
ベブは「最も正直な方法」で選んだ。
彼女は語る。
「昔から聞いたことのない曲ばかりだった。でも録音しているうちに、この曲は父の世界の中にあって、私はその神聖さをこれまで探求したことがなかった、と気づいたの」
彼女が選んだお気に入りは『João Gilberto』(1973)と『Amoroso』(1977)。
『João Gilberto』は、
ジョビン、バローゾ、カエタノ、そしてミュージシャン本人の魅力が凝縮された、
究極のミニマリズム。
「あれは“完璧”そのものだと思う」
■ 『Amoroso』という奇跡
『Amoroso』は甘い歌声と繊細なギターに、
クラウス・オガーマンの壮麗なオーケストラが加わった傑作。
オープニングは “Adeus América”。
バローゾの名曲をジョアンが歌い、娘ベベルがブラジルへ戻った人生を重ねて聴いたという。
■ 晩年のジョアンと娘
ベベウは彼の晩年の録音をこう振り返る。
「父が自分で録音スイッチを入れて歌う姿は、忘れられない宝物よ。
本当にこだわりの強い人だったの」
2023年リリースの Relíquia: João Gilberto (Ao Vivo no Sesc 1998) も、
その完璧主義を記録する貴重なアルバムだ。
■ ベベウ自身にとっての父
「もし私が父の娘でなければ、私は全く違う人間になっていたと思う。
でも、どんなことがあっても私は父のファンだったと思う。」
ジョアンの遺したものは、音楽だけでなく、
娘の人生そのものを形づくった。
BEST ALBUMS(おすすめアルバム)
1. Getz/Gilberto(1964)
アメリカでボサノバ旋風を起こした名盤。
「イパネマの娘」収録。

2. João Gilberto(1973)
“ホワイト・アルバム” の異名。
究極に削ぎ落としたボサノバ。

3. Amoroso(1977)
オガーマン編曲のオーケストラとジョアンの声が溶け合う名作。

4. Live in Montreux(1987)
ステージ恐怖症の彼が残した貴重なライブ録音。
5. Relíquia: João Gilberto (Ao Vivo no Sesc 1998)(2023)
1998年のライブ録音。親密で、美しい。
IF YOU LIKE JOÃO GILBERTO, THEN TRY…
Bebel Gilberto – João(2021)
父ジョアンへのオマージュアルバム。
父の楽曲への愛と記憶を美しく織り込んだ作品。








