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Wednesday, 11/2/2026 | 11:33 UTC+9

儀礼・恍惚・境界 BRIAN JONES PRESENTS THE PIPES OF PAN AT JAJOUKA

The Pipes of Pan at Jajouka

BRIAN JONES PRESENTS
THE PIPES OF PAN AT JAJOUKA

本作は、モロッコ北部リフ山地の村ジャジューカに伝わる儀礼音楽集団、Master Musicians of Jajouka を、ローリング・ストーンズの創設メンバーである Brian Jones がプロデュースし、1968年に発表された録音である。
西洋のロック・ミュージシャンが、北アフリカの儀礼音楽を「演出」や「再構成」ではなく、**提示(PRESENTS)**という立場に徹して世に送り出した、きわめて早い例として知られている。

ジャジューカの音楽は、ガイタ(リード管楽器)を中心とした反復的で持続的な旋律構造を持ち、祝祭や通過儀礼、治癒的文脈と深く結びついてきた。本作に収められた演奏も、いわゆる楽曲単位の構成ではなく、時間の流れそのものを音として記録したような性格を持つ。
旋律は展開せず、変化は最小限に抑えられ、聴き手は音楽を「理解する」のではなく、その場に置かれることを強いられる。

タイトルにある The Pipes of Pan は、ギリシア神話のパン神を想起させるが、それは西洋的な神話解釈を押し付けるためではなく、恍惚・野生・境界性といった概念を、当時の欧米の聴衆に伝えるための媒介として機能している。一方で at Jajouka という表現は、抽象化を拒み、あくまで「この場所で鳴っている音」であることを明確にする役割を果たしている。

ブライアン・ジョーンズは、本作において演奏や編曲に介入せず、録音と提示に専念した。その姿勢は、のちに「ワールドミュージック」と呼ばれる概念が形成される以前に、異文化の音楽をどのように外部へ紹介し得るのかという問いを、実践的に示したものと言える。

左側にシルエット、右側にコラージュを配したジャケット・デザインも含め、本作は「儀礼」「恍惚」「文化的境界」を一瞬で示す強度を持つ。
今日においても、本作は単なる歴史的資料ではなく、ワールドミュージック以前/以後を考えるための基準点として、参照され続けている。

About

世界の音楽との「出会い」(自己紹介 noteへのリンク) 大阪のレコード店で出会ったインドネシアのダンスミュージック ダンドゥット(DANGDUT)の女王、エルフィ・スカエシ(Elvy Sukaesih)と言ってもまずは誰もわからないだろう。インドネシアの美空ひばりと言ってもピンとこないな、きっと。それに正しくもない。インドネシアは多様な民族の集まる国だから国民を代表する歌手はいない。ひとつの大衆音楽の女王である。 大袈裟だが、このレコードと出会わなかったら、自分の人生は変わっていただろうと思う。ただ、それはわからない。でも、出会うべくして出会ったのだろう。 https://note.com/jirorhythm/n/n936acb145d0e

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