吉祥寺で出会ったハワイ
2026年7月24日僕にとって、吉祥寺は音楽のまちだ。
学生時代は、当時付き合っていた美大のガールフレンドに連れられてLIVEを観に行った。伊勢丹では音楽イベントをよくやっていた。昔の百貨店ではそうだった。今では記憶も曖昧だが、吉祥寺には昔から音楽があった。
そのころは、まさか自分が音楽業界に入るとは思ってもいなかった。
その後、レコード会社で働くことになり、さらに自分でレーベルを立ち上げてからは、吉祥寺のワールドミュージック系のLIVEハウスにもよく通った。大手CDショップのバイヤーに会いに行き、自分のレーベルの商品を置いてもらうために交渉したこともある。
だから、僕にとって吉祥寺は買い物のまちではなく、音楽のまちなのである。
そんな吉祥寺でCOCONUTS DISKに行った。
いきなり、目に飛び込んできたのは、なんとドン・ホーのカセットテープである。
価格は550円。

今さらドン・ホーを熱心に聴こうというわけではない。正直なところ、現在の耳で聴けば少し時代を感じる部分もあるだろう。
それでも、手に取らずにはいられなかった。
ハワイを愛する者として。
ワイキキには「Don Ho Lane」という通りもある。ドン・ホーは単なる歌手ではなく、一時代のハワイそのものを象徴する存在だった。
しかも、このカセットと出会ったのは、マウイ島から帰国した翌日のことだった。
テープのタイトルは『DON HO GOLD』。
収録曲を見る。
「Tiny Bubbles」
「Hanalei Moon」
「Hawaiian Wedding Song」
「I’ll Remember You」
どれも古き良きハワイを代表する曲ばかりだ。
なかでも目を引いたのは「Hanalei Moon」。
カウアイ島北岸のハナレイ湾を歌った名曲である。
僕はカウアイ島が好きだ。
あの湾に立つと、時間の流れ方そのものが変わるように感じる。
だから、この曲名を見つけた瞬間、買う理由は十分だった。ちなみに、この曲はドン・ホーのオリジナルではない。それでも僕にとっては、ハナレイ湾の風景を思い出させる一曲だった。
帰国したばかりの僕は、まだマウイ島の余韻の中にいた。
カアナパリの海。
ラナイ島とモロカイ島の間へ沈む夕陽。
夜明け前の静かな時間。
そして、新月の翌日に現れた細い舟形の月。
そんな風景を見たばかりだった。
だから、このカセットは単なる中古品ではなかった。
ハワイの記憶の続きだった。
音楽には不思議な力がある。
曲そのものよりも、その曲を聴いていた場所や時間を閉じ込めていることがある。
このカセットもそうだ。
誰かが昔、ハワイで買ったのかもしれない。
あるいは日本でハワイに憧れながら聴いていたのかもしれない。
そのテープが何十年も経って吉祥寺へ流れ着き、マウイ帰りの僕の手元に来た。
考えてみれば不思議な縁である。
音楽は川だと思う。
人から人へ。
場所から場所へ。
時代から時代へ。
流れ続ける。
550円で買ったのは途中で止まってしまう古いカセットテープだった。でも、「Hanalei Moon」が聴ければ充分だった。
そう言えば、その日の朝、妻と来年はカウアイ島へ行こうと話していたところだった。
ハナレイ湾の月は、まだ見ていない。





POST YOUR COMMENTS
コメントを投稿するにはログインしてください。