ウード、カーヌーン、声楽マカーム。
祈りと旋律が重なる中東の音楽は、世界でもっとも豊かな微分音の文化。
アラブ、トルコ、ペルシャの音楽を、旅と歴史など辿ります。
中東音楽とベリーダンス
― オリエンタル・ダンスが生まれた音の世界 ―
中東音楽を語るとき、
どうしても ベリーダンス(Belly Dance)の存在を避けて通ることはできない。
それは単なる踊りの伴奏音楽ではなく、
身体と音が一体となって発展してきた文化だからだ。
ベリーダンスという呼び名について
「ベリーダンス」という名称は、実は西洋側の呼称である。
19世紀末、ヨーロッパ人が中東や北アフリカの踊りを見て
“腹部を使った踊り”として名付けた言葉が定着した。
中東の人々自身は、もともとこの踊りを
Belly Dance とは呼んでいなかった。
各地域・文化圏での呼び名
■ アラブ圏(エジプト・レバノンなど)
- Raqs Sharqi(ラクス・シャルキ)
- 直訳すると「東方の踊り」
- 現在、最も正式で広く使われる呼称
- 舞台芸術として洗練されたスタイルを指すことが多い
- Raqs Baladi(ラクス・バラディ)
- 「土地の踊り」「民衆の踊り」
- より土着的で、即興性が高い
- バラディ音楽(Baladi Music)と深く結びつく
■ トルコ
- Oryantal Dans
- 西洋語由来だが、トルコ国内で定着
- リズムが速く、動きがダイナミック
- クラリネットやロマ音楽の影響も強い
■ 中東以外(欧米・日本)
- Oriental Dance(オリエンタル・ダンス)
- Belly Dance よりも文化的・芸術的文脈を意識した呼称
- 近年はこちらを好んで使う人も多い
音楽的特徴:踊りのための音楽
ベリーダンスの音楽は、
**旋律・リズム・間(ま)**が極端に重視される。
主な楽器
- ダルブッカ(Darbuka)
- レク(Riq)
- ウード(Oud)
- カーヌーン(Qanun)
- ネイ(Ney)
これらの楽器が生み出すのは、
「踊るためのビート」であると同時に、
身体の内側に入り込む音でもある。
マカームと身体
中東音楽特有の旋法体系 マカーム(Maqam) は、
ベリーダンスと切り離せない。
- 微分音(半音より細かい音程)
- 感情の起伏を描く旋律
- 即興(タクシーム)との関係
これらは、
踊り手がその場で感情を読み取り、身体で応答するための音楽として機能してきた。
ベリーダンスは「見せる踊り」ではなかった
本来この踊りは、
- 祝祭
- 家庭の集まり
- 女性同士の場
などで踊られてきたもので、
観客に向けて見せる芸能ではなかった。
だからこそ、
音楽もまた「聴かせる」より
**「身体と共有する」ためのものだった。
中東音楽を聴く、ということ
ベリーダンス音楽を聴くとき、
リズムや旋律の派手さよりも、
- 呼吸
- 間
- 音と身体の距離
に耳を澄ますと、
中東音楽の本質が少し見えてくる。
それは、
焚き火の前で自然に身体が揺れる感覚に、
どこか似ている。






