World Music|世界の音楽とことばのアーカイブ

アフリカ、インド、中東、南米、東欧、バリ、ジャズ、民謡、スーフィー、クラシックまで。 蒐集・試聴・旅・記録を通じて世界の音楽文化を紹介する日本語のワールドミュージック・メディア。

Monday, 19/1/2026 | 8:45 UTC+9

ウード、カーヌーン、声楽マカーム。
祈りと旋律が重なる中東の音楽は、世界でもっとも豊かな微分音の文化。
アラブ、トルコ、ペルシャの音楽を、旅と歴史など辿ります。

中東音楽とベリーダンス

― オリエンタル・ダンスが生まれた音の世界 ―

中東音楽を語るとき、
どうしても ベリーダンス(Belly Dance)の存在を避けて通ることはできない。
それは単なる踊りの伴奏音楽ではなく、
身体と音が一体となって発展してきた文化だからだ。

ベリーダンスという呼び名について

「ベリーダンス」という名称は、実は西洋側の呼称である。
19世紀末、ヨーロッパ人が中東や北アフリカの踊りを見て
“腹部を使った踊り”として名付けた言葉が定着した。

中東の人々自身は、もともとこの踊りを
Belly Dance とは呼んでいなかった。


各地域・文化圏での呼び名

■ アラブ圏(エジプト・レバノンなど)

  • Raqs Sharqi(ラクス・シャルキ)
    • 直訳すると「東方の踊り」
    • 現在、最も正式で広く使われる呼称
    • 舞台芸術として洗練されたスタイルを指すことが多い
  • Raqs Baladi(ラクス・バラディ)
    • 「土地の踊り」「民衆の踊り」
    • より土着的で、即興性が高い
    • バラディ音楽(Baladi Music)と深く結びつく

■ トルコ

  • Oryantal Dans
    • 西洋語由来だが、トルコ国内で定着
    • リズムが速く、動きがダイナミック
    • クラリネットやロマ音楽の影響も強い

■ 中東以外(欧米・日本)

  • Oriental Dance(オリエンタル・ダンス)
    • Belly Dance よりも文化的・芸術的文脈を意識した呼称
    • 近年はこちらを好んで使う人も多い

音楽的特徴:踊りのための音楽

ベリーダンスの音楽は、
**旋律・リズム・間(ま)**が極端に重視される。

主な楽器

  • ダルブッカ(Darbuka)
  • レク(Riq)
  • ウード(Oud)
  • カーヌーン(Qanun)
  • ネイ(Ney)

これらの楽器が生み出すのは、
「踊るためのビート」であると同時に、
身体の内側に入り込む音でもある。


マカームと身体

中東音楽特有の旋法体系 マカーム(Maqam) は、
ベリーダンスと切り離せない。

  • 微分音(半音より細かい音程)
  • 感情の起伏を描く旋律
  • 即興(タクシーム)との関係

これらは、
踊り手がその場で感情を読み取り、身体で応答するための音楽として機能してきた。


ベリーダンスは「見せる踊り」ではなかった

本来この踊りは、

  • 祝祭
  • 家庭の集まり
  • 女性同士の場

などで踊られてきたもので、
観客に向けて見せる芸能ではなかった

だからこそ、
音楽もまた「聴かせる」より
**「身体と共有する」ためのものだった。

中東音楽とベリーダンスの関係を体感する一枚として、 『Mosaico』 はとても分かりやすい。

中東音楽を聴く、ということ

ベリーダンス音楽を聴くとき、
リズムや旋律の派手さよりも、

  • 呼吸
  • 音と身体の距離

に耳を澄ますと、
中東音楽の本質が少し見えてくる。

それは、
焚き火の前で自然に身体が揺れる感覚に、
どこか似ている。