World Music|世界の音楽とことばのアーカイブ

アフリカ、インド、中東、南米、東欧、バリ、ジャズ、民謡、スーフィー、クラシックまで。 蒐集・試聴・旅・記録を通じて世界の音楽文化を紹介する日本語のワールドミュージック・メディア。

Saturday, 11/7/2026 | 3:19 UTC+9

『響け!情熱のムリダンガム』

気になっていた映画を観る機会を得た。

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少し前の南インド(タミール)の音楽映画だ。いつか配信で見ようと思っていたが、そのままになっていた。その前に、この映画の公開まで(おそらく)奔走されたであろう方が経営されるカレー屋さんを訪ねるのが先ではないか、そんなことも頭のどこかにあった。

月日は過ぎた。

昨日、所用があった渋谷で何か映画を観ようと探していた。

シアター・イメージフォーラム。

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知らなかったミニシアターだ。

この映画がやっているのか。

映画館で観られるとは思ってもいなかった。時間もちょうど良かった。何か縁のようなもの、導かれるような感覚もあった。

結果は、まさに導かれたと感じるものだった。

感動が冷めやらぬ今、南インドの大好きなDVDを朝から見ている。

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(掲載写真:筆者所蔵DVD『Raga Sudha Tharanga』より)
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(掲載写真:筆者所蔵DVD『Raga Sudha Tharanga』ブックレットより)
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(掲載写真:筆者所蔵DVD『Raga Sudha Tharanga』ブックレットより)

ヴォーカルも素晴らしいが、僕のスーパースターはムリダンガムのカライクディ・R・マニだ。今も浸っている。至福だ。

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この存在感

カライクディ・R・マニは現代を代表するムリダンガム奏者の一人。

約40年にわたる演奏経験を持ち、多くの若い奏者たちの憧れの存在となっている。

独自のスタイルで人気を集め、伝統を守りながらも複雑なリズム表現と卓越した打楽器技術で高く評価されている。

打楽器だけのアンサンブル「Sruti Laya」を創設したり、革新的な試みを数多く行った。

世界各地で演奏し、ムリダンガム学校を設立。弟子たちも活躍している。

カルナティック音楽専門誌『Layam』の編集者でもある。Image © Charsur Digital Workshop

音楽シーズンのチェンナイで初めてその演奏を聴いたときのことを思い出す。あの躍動感、あの緊張感。映画の中で描かれる世界は、僕が何度か旅した南インドの空気と確かに重なっていた。

南インドの音楽に惹かれた理由を考えると、音楽だけではない気がする。

旅先で出会った人々、街の空気、そして食べ物。

特に南インドのカレーには、音楽と同じような魅力を感じている。

だから、この映画を観ながら、自然とそんなことも思い出していた。

最近では南インド料理のお店も増えた。

僕が勤めていたあたりには、以前は『ニルワナム』しかなかったのに、今では少し調べただけで何店か出てくる。色々行ったが、僕はやはり『ニルワナム』に戻ってしまう。

カレーの話ではない。

ただ、少なくとも僕にとって、インドではカレーと音楽は同じくらい大切なものだ。

僕は妻がつくる様々なカレーが大好きだ。

幼いころから、両親がたまに連れて行ってくれるレストランでも、メニューにあれば「カレー」ばかりを注文していた。

呆れた母から、

「ご馳走のし甲斐のないコだ」

と言われたこともある。

好きなものは仕方ない。

社会に出て、音楽の仕事をしていた。

いくつかの会社を経て、自分で「ワールドミュージック」のレコード会社を作った。

谷あり谷ありの会社に一筋の光が見えたのは、アフリカ好きの経営者(僕)の向こうを張り、インドを突きつけてきた新人がいたからだ。

彼女は帰国子女だった。

面接のときに「バッハが好き」と言った。ピアノを弾いていた。K大学のSFCを卒業予定で、外資系金融会社に内定していたのに、僕の会社に入りたいと言う。

地元から母親がやって来た。

抗議に来たのか、僕を確かめに来たのか。

彼女が最初に決めたのが、ドイツの会社からライセンスした南インドの音楽だった。

カルナティック音楽?

初めて聴く。

インドでヴァイオリン?

壺の太鼓?

ムリダンガム?

なんじゃそりゃ?

の連発だった。

入り口はそんな感じだったが、僕がどう思おうが、彼女は頑張った。

指導者が良かったのか、パブリシティもたくさん取ったし、大手CDショップのバイヤーの支持も得た。

結果は、当時の我が社に勢いを与えてくれた。

月日は流れ、アフリカ好きの僕は、音楽の宝物がいっぱい詰まったインドに惹かれていった。

かれこれ、たくさん行った。

色々知って感じたのは、南インドが一番好きだということ。

インドの舞踊も好きだ。

一番好きなのはバーラタナティアムだ。

Shobanaの舞台を初めて見たときの衝撃は忘れられない。

舞踊にも音楽は欠かせない。

カレー、音楽、舞踊。

これらが見事にバランスを取りながら存在している南インドが大好きなのだ。

調べればすぐにわかるが、南インドの12月から1月は音楽シーズンで、各地でコンサートが連日開かれている。

伝統音楽であり、古典音楽でもある。

とはいえ、インドではそういう区分をあまり気にしていないようにも感じる。

音楽は音楽なのだ。

どこかに太鼓があり、どこかにリズムがある。

映画音楽でもそうだ。

リズム楽器は実に多彩である。

壺、茶碗、カンジーラ、口琴。

おそらく僕の知らないものもまだまだあるだろう。

そう、そこにあるものは何でもリズムになる。

会社の危機を救ってくれた南インド音楽の主役は兄弟ヴァイオリン奏者だった。

しかし僕はムリダンガムに惹かれた。

音楽シーズンのチェンナイでは素晴らしいコンサートばかり聴いてきたが、この映画がそれらを鮮やかに思い出させてくれるとは思ってもいなかった。

ネタバレになってもいいのだろうか。

最後に師匠(グル)が言うのだ。

「音楽は井戸じゃない。川だ」

と。

まったく、これは僕の世界観そのものではないか。

うーん、恐るべし、インド映画。

恐るべし、タミール映画。

恐るべし、南インド。

三月に予定していたチェンナイ行きは、仕事の都合で行けなくなってしまった。

やはり無理をしてでも行くべきだったか。

七月にはバナラシへ行く。

だが映画を観終わったあと、一瞬だけ、

「チェンナイにすべきだったか」

という思いがよぎった。

いやいや、それでいい。

チェンナイがまた僕を呼んでいることがわかっただけで十分だ。

それまでは日本で南インドのカレーを食べよう。

それもまた、紛れもなく南インドなのだから。

About

世界の音楽との「出会い」(自己紹介 noteへのリンク) 大阪のレコード店で出会ったインドネシアのダンスミュージック ダンドゥット(DANGDUT)の女王、エルフィ・スカエシ(Elvy Sukaesih)と言ってもまずは誰もわからないだろう。インドネシアの美空ひばりと言ってもピンとこないな、きっと。それに正しくもない。インドネシアは多様な民族の集まる国だから国民を代表する歌手はいない。ひとつの大衆音楽の女王である。 大袈裟だが、このレコードと出会わなかったら、自分の人生は変わっていただろうと思う。ただ、それはわからない。でも、出会うべくして出会ったのだろう。 https://note.com/jirorhythm/n/n936acb145d0e

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